人工呼吸器導入の基準

呼吸器

これまで呼吸生理と病態生理、酸素療法を学んできました。

酸素療法では呼吸苦が改善しない、呼吸筋の疲労が見られるような時はいよいよ人工呼吸器の導入を検討します。

今回は呼吸不全の考え方と導入の基準を解説していきます。

人工呼吸器の役割

人工呼吸器でできることをまず把握しておきましょう。

人工呼吸器は吸入酸素の濃度を増加させることができ、呼吸の量も設定できるので、ガス交換の改善が見込めます。

また、人工呼吸器は読んで字のごとく呼吸を人工的に手助けする装置です。
呼吸システムでいうと、駆動系の働きを肩代わりするんでしたね。

つまり、人工呼吸器の役割は

  1. ガス交換の改善
  2. 呼吸仕事量の軽減

この2つを担います。
それぞれ詳しく見ていきましょう。

ガス交換の改善

教科書的に言えば、酸素化不良(PaO₂:60mmHg以下)の状態を呼吸不全と言います。

換気不全を伴う(PaCO₂:45mmHg以上)状態になると、Ⅱ型呼吸不全に分類されます。
酸素化不良のみの呼吸不全はⅠ型呼吸不全です。

さらに呼吸不全の状態が1ヶ月以上持続する場合は慢性呼吸不全と言います。

  • Ⅰ型呼吸不全:酸素化不良のみ
  • Ⅱ型呼吸不全:酸素化不良+換気不全
  • 慢性呼吸不全:呼吸不全が1か月以上持続

つまり、呼吸不全とはガス交換不良の状態と言えます。
人工呼吸器を装着することで改善が見込めますが、血液ガスの値だけで人工呼吸器の導入を判断してもよいのでしょうか。

次は患者の呼吸状態をアセスメントして導入の判断する方法についてお話します。

呼吸仕事量の軽減

呼吸不全とは、教科書的に言えば前述のとおりですが、ここからは呼吸のシステム的に呼吸不全を見ていきましょう。
呼吸はガス交換を行う肺とガスを送るための呼吸筋(+コントロール)の力のバランスで成り立っています。
この呼吸仕事量と呼吸筋力のバランスが崩れると呼吸不全になってしまいます。

人工呼吸器で呼吸筋力を手助けすることで呼吸仕事量とのバランスを保つのが人工呼吸器の2つ目の役割になります。

呼吸仕事量

呼吸仕事量というのは肺へ空気を入れるために必要な呼吸筋の仕事の量のことです。
肺が膨らみにくかったり、気道が狭まり空気が通りにくい状態になると、肺を膨らませるための仕事量が増えます。

肺の膨らみやすさはコンプライアンスで表し、気道の通りにくさは気道抵抗で表します。
コンプライアンスは小さい(肺が膨らみにくい)ほど、気道抵抗は大きい(気道が狭い)ほど、呼吸仕事量が増大するということになります。

例えば肺炎にかかった場合、肺が水浸しになり息が吸いにくくなります。
肺炎は息が吸いづらくなる=肺コンプライアンスが低下する、拘束性障害でしたね。
肺コンプライアンスが低下するので、呼吸筋はいつも以上に働かないと呼吸を維持できません。
この状態を呼吸仕事量増大と表現します。

呼吸状態のアセスメント

呼吸仕事量が増大しても、呼吸筋力に余力があればすぐに人工呼吸器が必要にはなりません。

肺炎になった方が皆すぐに人工呼吸器が適応にはなりませんよね。
通常は呼吸筋に余力があるので、呼吸筋がいつも以上に働き、増大した呼吸仕事量をまかないます。
しかし、慢性呼吸疾患のために呼吸筋が疲労していたり、重症肺炎になっていたり、ご高齢の場合などは呼吸筋の余力がないので早めに人工呼吸器を検討するべきでしょう。

つまり、人工呼吸器の導入を判断するには、呼吸筋の余力がどの程度なのかをアセスメントする必要があります。

  • 表情(呼吸苦)
  • 頻呼吸(30回/min以上)
  • 努力呼吸
  • 意識混濁

などが当てはまる場合は呼吸筋に余力がなく、呼吸不全になっている兆候なので人工呼吸の導入を検討しましょう。

気管挿管の判断

人工呼吸器の導入=気管挿管管理と誤解されがちではありますが、人工呼吸器の導入基準と気管挿管の基準は異なりますので注意してください。

気管挿管の基準は

  • 気道の確保ができない
  • 痰の喀出困難

などが挙げられます。

気管挿管管理による人工呼吸器は患者にとって侵襲度の高いものです。
上記が当てはまらない場合はマスクによる人工呼吸療法やネーザルハイフローなどで改善が見込めるかもしれません。
可能であればより低侵襲な方法を選択できるよう医師をサポートできるといいですね。
(院内採用機器の問題もあり、選択の余地がないかもしれませんが)

ちなみに、マスクによる人工呼吸療法をNPPV(non-invasive positive pressureventilation)と呼びます。
NPPVもネーザルハイフローもいずれ解説しますのでお楽しみに。

まとめ

人工呼吸器の導入判断について理解できましたか?

血液ガスの値だけでなく、患者の状態を観察し、総合的に人工呼吸器の導入を判断できるようにしましょう。

また、主治医が人工呼吸器に不慣れな場合もあります。
呼吸器の選定(挿管かNPPVか)や、ネーザルハイフローなどの提言ができるように知識をつけましょう。

次回は人工呼吸器とは何か、代表的なモードについて解説します。
お楽しみに。

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