いよいよ人工呼吸器の肝の部分を解説していきます。
患者の状態や、人工呼吸器装着に至った病態などを押さえた上で設定します。
呼吸生理や病態生理が身についていない方はこちらからおさらいをどうぞ。
人工呼吸器の役割を覚えていますか?
ガス交換の改善と呼吸仕事量の軽減です
そのとおり。
呼吸仕事量の軽減とはつまり駆動系の肩代わりをすることでしたね。
これは強制換気やPSでできることがわかったはずです。
ここではガス交換の改善について解説していきます。
換気障害の改善
換気障害とは、呼吸停止や慢性呼吸不全などでPaCO₂が高い状態ですね。
PaCO₂を下げるにはどうすればいいでしょうか。
そう、しっかりと息が吐けるようにしてあげることです。
人工呼吸器管理において換気量の評価は分時換気量を用います。
分時換気量は1回換気量×呼吸回数です。
血液ガスのデータを見ながら設定することになりますが、PaCO₂の正常値を無理に目指す必要はありません。
肺の保護のために分時換気量を増やせない場合、pHが7.2を下回っていなければPaCO₂を許容する場合もあります。
1回換気量の設定方法
さて、1回換気量はどのように設定したらいいでしょうか。
体重あたり6~8mlです
そうですね、肺損傷を予防するため通常は6~8ml/kgで設定します。
1回換気量を増やすことができればPaCO₂を早く下げられますが、9ml/kg以上に設定すると肺損傷を起こすことがわかっています。
特にARDSの場合は体重当たり6mlで設定します。
では、身長172.4cm体重100kg男性の場合は1回換気量800mlまで上げても大丈夫でしょうか?
答えはいいえです。そんなに入れたら肺損傷を起こします。
じゃあ体重当たり6~8mlは使えないんですか?
肺のサイズは身長によって決まるとされています。
同じ背丈で太っている人と痩せている人と肺の容量は変わりませんよね。
したがって、1回換気量は身長によって決めなくてはなりません。
身長から理想体重を計算し、体重当たり6~8mlの範囲で1回換気量を設定します。
前述の身長172.4cm体重100kg男性だと、理想体重は68.2kgなので、
68.2×8≒550mlとなり、1回換気量の上限は約550mlとなります。
1回換気量800mlとしなくてよかったですね。
逆に少なすぎる1回換気量にも注意が必要になります。
呼吸においてガス交換を行うことができるのは肺胞のみです。
気道・気管支に存在するガスはガス交換されないまま出入りします。
ガス交換に関与しない領域のことを解剖学的死腔と言います。
成人における解剖学的死腔は約150mlあります。
この150mlはガス交換できないと頭に入れて設定しましょう。
1回換気量の設定ポイント
- 理想体重あたり6~8ml
- 解剖学的死腔150mlを考慮する
呼吸回数
170cmの男性でも1回換気量の上限は約500mlと、1回換気量の設定が意外と少ないことがわかりました。
1回換気量で増やすことができなかった換気量を回数で調整するのが呼吸回数です。
※CPAPモードは自発呼吸のモードなので呼吸回数を設定できません。
では、呼吸回数は増やせば増やしただけいいのでしょうか。
例えば呼吸回数30回/minに設定した場合、1回の呼吸に使える時間は2秒間です。
仮に吸気時間を1秒に設定すると、呼気に使えるのは1秒間だけです。
人工呼吸器でコントロールできるのは吸気だけで、呼気は患者の肺が元に戻ろうとする力によって行われるということを覚えていますか?
息を吐きづらい閉塞性障害の患者にこの設定で人工呼吸器を装着するとどうなるでしょう。
呼気1秒では息が吐ききれず、次の吸気がスタートする恐れがあります。
一方、コンプライアンスの低下した拘束性障害(特にARDS)の患者は呼気が早く吐き終わるため、呼吸回数を30回/minとしても十分に呼吸することができます。
呼吸回数は呼気時間を確保できるように設定しましょう。
呼吸回数の設定ポイント
- 呼気時間に注意して設定する
以下に病態・疾患別の1回換気量と呼吸回数の目安をお示しします。
病態・疾患 | 1回換気量(ml/min) | 呼吸回数(回/min) |
気道確保、神経筋疾患 | 6~8 | 10~16 |
肺炎、肺水腫 | 16~24 | |
喘息、COPD急性増悪 | 8~12 | |
ALI、ARDS | 6 | ~35 |
Dr.竜馬の病態で考える人工呼吸管理より
酸素化障害の改善
酸素化障害とはPaO₂が低下している状態ですね。
SpO₂の値も低く、チアノーゼなどが起きている可能性もあります。
PaO₂を上げるための設定項目は吸入気酸素濃度とPEEPです。
酸素化の評価は血ガスのPaO₂の値やSpO₂の値で行いますが、PaCO₂の時と同様正常値を目指さず、最低限の値で調整しましょう。
PaO₂:60~80mmHg SpO₂:90%の値までは許容します。
FIO₂
FIO₂(Fraction of Inspiratory Oxygen:吸入気酸素濃度)は吸気の酸素濃度の設定項目です。
吸気の酸素濃度を増やせば肺胞酸素分圧PAO₂は上がります。
肺胞と肺血管の間に障害がない場合はPaO₂も上昇します。
しかし、シャントが多数存在している、あるいは換気血流比不均等がある場合はFIO₂を増やすだけではPaO₂は改善しません。
そんな時に設定するのがPEEPです。
PEEP
PEEP(Positive End Expiratory Pressure:呼気終末陽圧)は吸気が終わってからも陽圧をかけ続ける設定項目です。
PEEPをかけるとどんなことがおこるのでしょうか。
肺は風船のような臓器でしたね。
風船はある程度膨らんでいた方が少ない圧で膨らみやすいのは皆さん経験があると思います。
つまり、虚脱した肺胞は膨らみづらいので吸気の際もあまり膨らまない上、呼気になるとまた虚脱してしまいます。
そこにPEEPをかけると、呼気にも圧がかかって肺胞が虚脱せずにすみ、そして次の吸気の際にも膨らみやすくなります。
多くの肺疾患は虚脱した肺胞と正常な肺胞が存在します。
虚脱した肺胞と正常な肺胞では、吸気ガスはより膨らみやすいほうに流れてしまいます。
その結果正常な肺は過伸展し、虚脱した肺胞はいつまでも膨らみません。
こうした状態もPEEPにより改善が見込めます。
なので基本的に人工呼吸器を使用する場合はPEEPを5cmH₂Oは設定します。
最適なPEEPっていくつなんですか?
実は最適なPEEPの設定方法はいまだに確立されていません。
前述した換気量の設定方法について提唱したARDS networkがPEEP設定の目安についてもプロトコルを挙げています。
ただし、次の表は肺胞の虚脱と低酸素血症が相関することを前提としている上、エビデンスに乏しく、問題提起もなされているので参考程度にご覧ください。
臨床上プロトコルどおりに設定すると上手くいくケースも多くあるので頭に入れておくとよいでしょう。
FIO₂[%] | 30 | 40 | 50 | 60 | 70 | 80 | 90 | 100 |
PEEP[cmH₂O] | 5 | 5~8 | 8~10 | 10 | 10~14 | 14 | 14~18 | 18~24 |
PEEPを24cmH₂Oもかけるんですか?
そんなにかけて大丈夫なんですか?
ARDSに使用される、APRVというモードがあります。
CPAPモードの一種で2層のPEEPをかけるモードですが、高圧層では25cmH₂O以上に設定することもあります。
もちろん病態や、肺のメカニクスをきちんと理解したうえで使用しなければなりませんが、ARDSは極めて予後の悪い急性期疾患です。
特別な設定が必要になることもあることを覚えておきましょう。
PEEPについての詳しい解説はまたいずれ行います。
興味のある方はぜひご覧ください。
まとめ
人工呼吸器の設定について理解できたでしょうか。
病態に合わせて設定を変えているのがよくわかっていただけたと思います。
最初のうちは患者に合わせた設定を行うのが難しいと思いますが、Drの設定からなぜこの設定なのか考察してみましょう。
人工呼吸器に不慣れなDrへは設定のお手伝いできるよう力をつけられるといいですね。
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