透析患者の貧血 鉄補充

血液浄化

透析患者は様々な理由で貧血となります。

貧血の対策として、EPO(エリスロポエチン)生産能の低下に対するESA(Erythropoiesis-Stimulating Agent)製剤の投与がされますが、同時に赤血球生産に必要な鉄を補充するため鉄剤の投与が必要となります。

皆さんは普段何気なく投与している鉄剤についてどの程度理解していますか?

こちらの記事では鉄の特徴、検査データの読み方、鉄補充のポイントについて解説していきます。

鉄 とは

そもそも鉄とは何でしょうか?

通常、鉄は3~4gほど体内に存在しています。
その70%が赤血球内のヘモグロビンとして存在しており、その他、筋肉中にはミオグロビンとして、補助因子としてのヘム鉄などが存在します。
ヘモグロビン内の鉄はヘモグロビンの寿命と共に遊離し、再度ヘモグロビンの材料として利用されます。

鉄は酸素との結合能が高い特徴があり、そのままにしておくと活性酸素によって細胞を傷つけてしまうため、血液中に鉄イオンとしては存在しません。
体内では常に何かと結合して存在しています。

えむ太
えむ太

じゃあ、血液データで測定しているFeは何を計測しているんですか?

Fe(血清鉄)とは、血清中の鉄の量のことですが、実際の鉄はトランスフェリンというたんぱく質と結合した状態で存在しています。
ヘモグロビン生産に使用されるのがこのFe、つまりトランスフェリン鉄です。
トランスフェリンの量に対してどれだけ鉄が結合しているかを表すのがTSATで、輸送機構に余裕があるのかどうか評価します。

また、鉄には生体内での排出機構がほぼないので、すぐに利用しない鉄を貯蔵しておく機構があります。
それが、アポフェリチンです。
アポフェリチンは鉄と結合することでフェリチンとなり、組織に貯蔵されます。

検査データの読み方

えむ太
えむ太

結局、鉄補充の評価はどの値を見ればいいんですか?

しぃな
しぃな

いろいろな見方ができるけど、今回は見るべき項目を絞って教えるね

Fe:血清鉄

透析患者基準値:45~100μg/dL

先ほど話したように、Feがヘモグロビンの生産に関わります。
Feが少なければヘモグロビンの生産は滞り、Hb値は上がらずに貧血は改善されません。

しかし、過剰な鉄は後述のヘプシジンを増加させ鉄利用を阻害するので注意が必要です。

TSAT

透析患者基準値:20%以上

TSATとはTransferin Saturationの略で、トランスフェリン飽和度という意味です。
総トランスフェリン(TIBC:総鉄結合能)に対し鉄がどれだけ結合しているかを表しています。

サチュレーションと言えば、皆さんよくご存じSpO₂(経皮的動脈血酸素飽和度)のサチュレーション(飽和度)と同じです。
SpO₂はヘモグロビンにどれだけ酸素が結合しているかを表していましたね。

しぃな
しぃな

ちなみに鉄と結合していないトランスフェリンをUIBC:不飽和鉄結合能といいます

フェリチン

透析患者基準値:100~300ng/mL

フェリチンは肝臓や脾臓に多く存在し、鉄を解毒しつつ貯蔵をしています。
血液検査によって測定するのは血清フェリチンの値で、1ng/mLは貯蔵鉄8~10mgに相当します。

2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドラインでは、300ng/mLを超える場合は鉄補充を推奨しないとされています。
ただし、感染症や、炎症、心筋梗塞などがあると、貯蔵鉄量とは無関係に上昇するので見極めが必要です。

ヘプシジン

鉄はそのままの状態で存在すると高い酸素結合能により細胞を傷つけてしまうんでしたね。
鉄は排出機構がほぼないので、過剰にならないように制御するホルモンがあります。
それがヘプシジンです。

ヘプシジンは肝臓で合成されるペプチドホルモンで、鉄のホメオスタシスを維持するための重要な要素です。
しかし、透析患者にとってはフェリチンの分解を阻害し、腸管からの鉄吸収を阻害し、ヘモグロビンから遊離した鉄の利用をできないようにする厄介な奴です。

ヘプシジンは鉄剤投与や、炎症性サイトカインにより増加し、逆に低酸素状態では減少します。

おまけ

HIF-PH阻害薬について
HIF-PH阻害薬はEPO産生能低下に対するESA製剤投与に変わる、内服の貧血改善薬です。
このHIF-PH阻害薬は、EPO産生を高めるだけでなく、ヘプシジンを抑制し、鉄利用を改善する効果も期待されています。
炎症反応の高い患者に対して、ESA製剤からHIF-PH阻害薬に切り替えるともしかしたら効果があるかもしれませんね。

鉄剤の種類

鉄剤は経口剤と注射剤とありますが、透析患者は以下の理由により注射剤を選択することが多いと思われます。

  • 透析による血液(鉄)の喪失量が多い
  • 多種類の経口薬をすでに服用している
  • 経口投与による胃腸障害が多い
  • 注射投与ルート(血液回路)が確保できる

経口剤

経口剤にはフェロミア(クエン酸第一鉄)やフェルム(フマル酸第一鉄)などがあります。

クエン酸第一鉄と聞いて、皆さんは何か気が付きませんか?

えむ太
えむ太

リオナは確か、クエン酸第二鉄です!

そう、リオナはリン結合能が高い第二鉄(3価鉄)が主成分です。
鉄が消化管内でリン酸と結合することで体内へのリン吸収を阻害し、便として排泄させるのがリオナの作用機序です。

つまり、リン吸着剤に鉄を利用している高リン血症治療薬は鉄補充も期待できるということです。
逆に、鉄補充目的で鉄剤を投与することで思わぬ低リン血症を引き起こす恐れがあることも覚えておきましょう。

注射剤 フェジン

鉄補充の注射剤と言えば、フェジンですね。

フェジンはショ糖を用いて水酸化第二鉄をコロイド化し、血液に直接投与しても害のないよう加工されています。
コロイドが壊れる恐れがあるので、希釈する場合は必ず10~20%ブドウ糖で行ってください。
ブドウ糖以外の液体で希釈した場合、鉄イオンが発生し、活性酸素によって細胞に損傷を与える恐れがあります。
多剤との混合や、点滴への混注もフェジンのコロイド破壊につながる恐れがあり、行わないようにしましょう。

フェジンの投与方法

ここからは、皆さんが一番気になっているであろうフェジンの投与方法についてお話します。
皆さんの施設ではどのタイミングでどのように投与していますか?

しぃな
しぃな

当院では、ガイドラインに則り透析終了時に2分以上かけてゆっくり投与しています

投与のタイミングは終了時にほかの薬剤と一緒に透析回路から入れている施設がほとんどだと思います。
問題なのは、ワンショットでいれるのか、それとも2分以上かけるのかではないでしょうか。

フェジンの添付文書上は2分以上かけてゆっくり投与するように記載があります。
これに則った形で、2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドラインでも、透析終了時に血液回路返血側からゆっくりと投与するように記載されています。
静注ではないからワンショットOKというわけではなさそうです。

しかしながら、ワンショットにおける投与と2分以上かけて投与する場合との有意差を示すエビデンスは私の知る限りありません。

結局は施設の方針に任せる形にはなってしまうのですが、最後に持続投与と終了時に注入する場合との比較を発表している資料を見つけたのでご紹介します。

こちらの文献では、20%ブドウ糖で希釈したフェジンをシリンジポンプで透析開始時から終了まで持続注入すると、終了時にワンショットした場合に比べてヘプシジンの増加が少ないと発表されています。
前田貞亮,友杉直久:鉄剤補充の方法.透析フロンティア, Vol. 17, No. 3; 14-20, 2007
もし、シリンジポンプが2台以上ついている透析コンソールをご使用の施設の方は試してみると新たな発見があるかもしれませんね。

まとめ

透析患者における貧血治療の鉄について理解できたでしょうか。

鉄補充のポイントを押さえて今後の透析医療に役立ててください。

今回はtwitterで見かけたアンケートに対して書き記した形なので、図も何もありませんが、時間を見つけて記事を充実させていこうと思っています。

最後に私見を記載しておきます。
私は、一番大切なことは患者にとって最善の医療を提供することだと思っています。
終了時はバタつくから、患者から文句が出るからという理由で副作用が出るかもしれない、推奨されていない方法で投与することはしたくないと考えています。
当院にも、気難しい、クレーマーのような方がいらっしゃいますが、苦情に対して原因を探るとほとんどが説明不足です。
患者へきちんと説明すればわかっていただけると思いますし、ちゃんと患者に向き合っていれば関係性も構築されてよりよい透析が提供できるはずです。
当院のDr、上司CEもおおむね同じ考えでいます。
皆さんはどうお考えでしょうか。
今回の記事がどなたかのお役に立てれば幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました