パルスオキシメータ

呼吸器

今回はバイタル測定として、心電図や血圧、体温に並んで重要な測定機器となっているパルスオキシメータについて解説します。

パルスオキシメータの値は何を計測していて、波形は何を表しているのかここでしっかり学んでいってください。

SpO₂(酸素飽和度)とは

例えば、呼吸が苦しそうだったり、頻呼吸や頻脈、チアノーゼが起こっている場合どうしますか?
どうやら低酸素の症状のようですが、すぐに酸素を投与しますか?

やみくもに酸素投与はしませんよね。
緊急の場合を除いて、多くの場合まずバイタル、特にSpO₂(酸素飽和度)を測定すると思います。

まずSpO₂測定の原理をおさらいしましょう。

パルスオキシメータとは

パルスオキシメータは経皮的に酸素飽和度が測定できるため、病院だけではなく一般家庭にも広く普及しています。

一般の方が購入できる機器は医療用ではないので精度に難ありですが、一般の方も購入できる私がおすすめするパルスオキシメータはこちらです。

今や、パルスオキシメータといえばNellcor(Medtronic)やMasimoが高い精度で有名ですが、元は日本の企業が開発した技術というのはご存じでしょうか。
詳しくは割愛しますが、パルスオキシメータは1972年に日本光電の技術者が発明した原理を利用しているんですよ。

動脈血と静脈血では色が異なることは皆さんご存じですよね。
色が異なる血管へ特定の光を当てると光の吸収度(吸光度)が異なることを利用したものがパルスオキシメータです。
その原理を利用し、ヘモグロビンがどの程度酸化されているか数値化します。

パルスオキシメータの”パルス”は脈波を、”オキシ”は酸素を表しているということですね。

日本光電HPより

酸素解離曲線

ここからは酸素解離曲線について説明していきます。

酸素解離曲線とは、酸素飽和度と酸素分圧の関係を表に表したものです。

酸素分圧の高い肺でヘモグロビンは酸素と結合します。
そしてヘモグロビンは酸素分圧の低い組織で酸素を放出します。

肺でヘモグロビンが100%酸素と結合しますが、末梢組織では約75%に結合率が低下します。

この差25%が酸素供給量です。

酸素解離曲線が理解できれば、血液ガスを取らなくてもPaO₂の値がおおよそ予測できます。
ネット上や、教科書には酸素飽和度と酸素分圧の換算表がありますが、細かくすべて覚えるのは大変です。
最低限3ヶ所の値を覚えましょう。

PaO₂:60mmHg以下が呼吸不全と定義されるため、SpO₂が90%以下の場合は呼吸不全のため酸素療法を行う必要があると判断できるわけです。

酸素飽和度は割合表示なので、100%以上になることはありません。
99%までは酸素解離曲線からおおよそのPaO₂が把握できますが、100%となるとPaO₂がわからなくなってしまいます。

そのため、酸素療法を行う際は(慢性呼吸不全の場合を除き)、SpO₂は99%を上限にコントロールすることを心がけましょう。

では、続いて右方移動と左方移動について説明します。

右方移動

酸素需要量が増えると、酸素解離曲線が右側に移動します。

酸素解離曲線が右方移動すると、肺での酸素結合率が少し下がりますが、組織での酸素結合率も下がるため、多くの酸素がヘモグロビンから放たれます。

例えば、肺でヘモグロビンが95%酸素と結合し、末梢組織では約60%に結合率が低下すると、酸素供給量は35%です。

つまり、通常時より10%酸素供給量が増えます

より多くの酸素が必要な場合は酸素供給量を増やすため、酸素解離曲線が右方移動することを覚えておきましょう。

左方移動

一方で酸素需要量が減ると、酸素解離曲線は左側へ移動します。


酸素解離曲線が左方移動すると、肺での酸素結合率は100%以上にはなりませんが、組織での酸素結合率が上がるため、ヘモグロビンから放たれる酸素の量が減ります。

例えば、肺でヘモグロビンが100%酸素と結合し、末梢組織では約85%に結合率が低下すると、酸素供給量は15%です。

つまり、通常時より10%酸素供給量が減ります

体温が低下するなど、組織での酸素需要量が低下すると酸素解離曲線は左方移動することを覚えておきましょう。

パルスオキシメータ波形の活用

パルスオキシメータの”オキシ”の部分はよく理解いただけたと思いますが、次は”パルス”の部分を見ていきましょう。
パルスオキシメータで測定できる波形は脈波ということは先ほど説明しました。

酸素飽和度だけじゃなく、脈波からもいろいろ情報が得られるんですよ。

数値の信頼度

SpO₂:88%でアラームが鳴っている時、脈波がノイズだらけだった場合の数値は信頼できますか?

SpO₂はほとんどの場合、手の指で測定します。
少しの動きが波形に影響し、また、プローブがずれたり、外れたりしやすくなります。

波形を見て、正しく測定できているかの指標に活用しましょう。

また、PI(Perfusion Index/灌流指数)という数値が表示される機種の場合はPI値が低すぎず安定している場合はSpO₂の値は信頼度が高いと判断します。

PR

HRはHeart Rate心拍数ですが、PRはPulse Rate脈拍数を表します。

SinusRythm(整脈)の場合はHR=PRですが、不整脈が起こると、心臓に血液が充填される前に心筋が収縮し(空打ち)血液が駆出されないことがあります。

例えば2段脈が続くような場合、HRでは80bpmと問題なくとも、実際は2回に1回しか血液が駆出されていないことになります。
そういったときにPRを確認するとRateが40bpmしかないことにいち早く気が付くことができます。

また、PEA(無脈性電気活動)の際にはHRとして数値が表示されてしまうので、心停止に気が付かない可能性があります。
PRに注目していれば心停止に気が付かないという事態にはなりませんよね。
※PEAは心臓の電気活動はあっても、血液は駆出されていない状態のことを言います。

波形の形状

観血血圧波形を見たことがある方はわかると思いますが、パルスオキシメータの波形は動脈の血圧波形とほぼ同じ形をしています。
動脈の脈波を見ているので、当然といえば当然ですが。

観血血圧の波形が経皮的に見られるので活用しない手はありません。

ここからは波形の特徴を簡単に紹介します。
ICUやOPE室で循環管理される際に役に立つので覚えておきましょう。

パルスオキシメータの波形

脈圧

波形の高さが脈圧です。
呼吸性に脈圧が変動する場合、奇脈あるいは逆奇脈の可能性があります。
脈圧を経時的に観察することで循環動態の把握に役立つため、補液の目安として利用することができます。

奇脈とは吸気時に脈圧が10mmHg以上低下する現象のことで、心タンポナーデやhypovolemia(循環血液量減少)、閉塞性呼吸疾患の際に観察されます。

逆奇脈とは呼気時に脈圧が低下する現象のことで、左心不全の際に観察されます。

1回拍出量

波形の最初の山と基線で囲われた面積が1回心拍出量です。
面積が小さければ心拍出量が少なく、面積が大きければ心拍出量は大きいということがわかります。

前述の奇脈がある場合、1回拍出量も呼吸変動します。

心収縮力

波形の立ち上がりの角度を心収縮力として観察できます。
立ち上がりが急であれば心収縮力が高いと言えます。
逆に立ち上がりが緩やかである場合、心収縮力が低下しているため注意が必要です。

dicrotic wave

大動脈弁閉鎖後、拡張期に観察される山をdicrotic waveと言います。
このdicrotic waveの有無で末梢血管抵抗を評価できます。

dicrotic waveがない場合、hypovolemia(循環血液量減少)やseptic shock(敗血症性ショック)で末梢血管抵抗が低下した状態を示唆します。

パルスオキシメータの欠点

パルスオキシメータは経皮的に動脈血の血圧波形と酸素飽和度がわかるので、とても便利な測定機器ですが、そんなパルスオキシメータにも欠点があります。

低灌流状態

低灌流状態になると、脈圧が低下します。

パルスオキシメータは脈圧で動脈成分を抽出していましたよね。
脈圧が検知できなくなる(PI値低下)と、SpO₂が測定できません。

手指は低灌流の影響を受けやすいので、手指でのSpO₂は末梢血管収縮により測定できなくなります。
しかし、パルスオキシメータは耳や前額部でも測定できます。
特に前額部での測定は内頚動脈から分岐した眼窩上動脈をターゲットにしているので、低灌流時に末梢血管収縮作用を受けにくく、SpO₂の測定継続が可能な場合があります。

パルスオキシメータの罠

例えば、火事やストーブなどの不完全燃焼の際に一酸化炭素中毒を起こすことがあります。
この時、一酸化炭素中毒患者のSpO₂は正常値を示します。

一酸化炭素は酸素よりヘモグロビンとの親和性が高いため、ヘモグロビンは酸素より一酸化炭素と結合してしまいます。
パルスオキシメータは酸化ヘモグロビンの割合を表示しますが、酸素と結合したオキシヘモグロビン(O2-Hb)なのか、一酸化炭素と結合したカルボオキシヘモグロビン(CO-Hb)なのか区別できません。

その結果、低酸素状態で酸素療法が必要なのにもかかわらず、SpO₂の値は正常値を示し酸素療法がおこなわれない可能性があります。

CO-Hbは血液ガスを測定するか、Masimo社のパルスCOメータなどで測定する必要があります。

まとめ

パルスオキシメータについて理解できたでしょうか?

ただ酸素飽和度の数値を見るだけのCE/Nsではなく、波形やPIなど、パルスオキシメータからわかる情報すべてを活用できると、医療従事者としてレベルアップにつながると思います。

今回の記事をしっかり読んで日々の業務に生かしていってください。

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